先天的な耳の形を変える手術
耳介形成手術の技術的側面に関心のある方は、下のリンク先をご覧ください。患者さんばかりでなくこの様な手術に関心のある医師の皆さんにも参考になるような技術的なお話や術中写真なども掲載しています。
術中写真等が表示される場合があります。血液が写り込む場合などは彩度を落とすなど調整をしていますが、血液の写った写真などが苦手な方は用心してご覧ください。
耳介形成手術の基礎(製作中)
立ち耳の手術
立ち耳
立ち耳の例:右端は他院で手術したところ不自然な折れ目が生じた
立ち耳は日本では400人に一人程度生まれると言われ、耳介の先天異常の中では比較的多い変形です。欧米では「奇形」とみなされますが、日本を含めアジアでは正常範囲の変異とみなされ、病気の範疇には入りません。
耳介の形は人により、また左右により違い、立ち耳の形状にも様々なバリエーションがあります。従って立ち耳修正の手術もまた、その人ごとに適切な方法を考えなければなりません。しかし多くの形成外科や美容外科では、一律に耳の裏側から対耳輪を切開して折り曲げる手術法を採用することが多く、このため切開したところで鋭角に折れて不自然な仕上がりに悩む患者さんが多いようです。
これは、耳の手術法を習える施設が国内にはほとんどないため、多くの医師が手術雑誌などを見て、学会の推奨する、耳介上部の軟骨に裏から3本ほど切開を入れ折り曲げて後ろに寝かせる方法を、患者の耳の形に関わらず採用するためだと思います。しかし実際には、典型的・教科書的な立ち耳の患者さんは案外に少なく、他の変形を合併していたり、そもそも立ち耳ではない患者さんを誤って診断していたりします。診断自体が誤っているのでは、そうした方法で自然な形にはならない可能性が大きいと思っています。
大江橋クリニックでは、左右それぞれの耳を別々の方向から見たときより自然に見えるよう努力しています。教科書的な標準的な手術法では対耳輪の微妙なカーブを繊細に表現できないため、少々手間はかかるものの後戻りの少ない方法を工夫しています。
【参考】
様々なクリニックで行われている立ち耳の手術の術後結果の例。一般的な医療水準を理解してもらう目的なので、他院を貶める意図は無く引用元は明示しません。いずれも「軟骨を折って裏から縫合する」術式と想像されますが、そのため対耳輪が細く折れて鋭く直線的になってしまっています。
(一言解説)左から
①対耳輪をまっすぐ折り曲げてあるので、この写真ではわからないがおそらく正面から見ると耳の中央あたりが凹んで見えると思います。
②折り曲げる位置が外側すぎ、かつ上の方まで縫合してあるので、おそらく正面から見ると耳尖が尖って見えると思われます。
③耳甲介が大きすぎるタイプの耳に、狭い対耳輪の外側を折り曲げたため、不自然に大きな耳に見えてしまうと思います。
④前項と同じく耳甲介が大きすぎるタイプの耳に、対耳輪をまっすぐ折り曲げたため、不自然に四角い耳に見えてしまいます。
⑤対耳輪を鋭くまっすぐ折り曲げたため、①と同様に中央が後ろに倒れすぎて凹んで見えると思います。
⑥折り曲げる位置が外すぎ、折り方も鋭すぎるため、対耳輪が重複しているような奇異な外観になっています。
一方、下に示したのは右から、耳を失った人が装着する偽耳(エピテーゼ)の例、ピアス展示用に作られた耳のマネキンの例、ネット上に挙げられている正常と思われる耳の写真の一例、大江橋クリニックで行った立ち耳手術の術後写真(この下に挙げた症例)です。いずれも対耳輪がある程度太く柔らかい曲面でできていることがわかります。
代表的な立ち耳の症状は対耳輪の曲がりが浅く耳全体が平らに起き上がっているというものですが、実際には様々な形があり、耳の裏側の筋肉の発達が悪いために耳全体が起き上がっていることもあれば、対耳輪が横に折れてコップ耳のような変形を起こしている場合もあります。
立ち耳手術の一例
耳の形に正解はなく、人によって形は様々ですが、耳介軟骨は一般にごく一部(対耳輪第1脚が耳輪の中に隠れていく部分など)を除いて鋭く折れたところがなくなだらかな曲面で構成されています。この柔らかなカーブを保つために大江橋クリニックでは様々な工夫をしています。
上記症例の詳細。片側の立ち耳。対耳輪の縦方向の曲がりが少ないだけでなく、耳の中央あたりが不自然に凹み、左側の正常な耳とはずいぶん形が異なっています。一般的に美容外科や形成外科で行われているような、耳の上方を後ろに折り曲げるだけの手術では改善できません。軟骨を自然に曲げるため一旦前面の皮膚を取り除いて軟骨に細かく浅い筋を入れて行きます。手術時間は片耳で1時間半〜2時間くらいかかります。
クローズ法(埋没法)と呼ばれる立ち耳手術は行ないません
軟骨膜を切らずに糸で縛るだけのような簡単な手術法では、耳のような弾性軟骨の形を長期間にわたって保たせることは困難です。耳介軟骨は元に戻ろうとする性質が非常に強く、糸が切れれば手術の効果はすぐになくなってしまいます。
また、後で説明するように、糸だけで縛った耳の形はどうしても不自然になります。通常は耳の前後面を切開し、軟骨膜を露出させてメス等を用いて形を整える必要があります。 術後は1週間程度耳全体を包み込むようにガーゼ等で圧迫する必要があります。
本当に立ち耳ですか?
患者さんの耳の状態が本当に単なる「立ち耳」なのか、は診察を受けていただかないとわかりません。
耳介(外耳)の形には多くのバリエーションがあり、一見立ち耳のように見えても、変形の仕方が異なりスタール耳を代表とした様々な先天性耳介形成異常の一種である場合もあります。修正相談に来られた患者さんの中には、典型的なスタール耳に対して、立ち耳の標準的な手術が行われていたこともあります。またいわゆるコップ耳と呼ばれる変形で、対耳輪を折り曲げたためにかえって奇異な形になってしまった方もいました。どういう方法が向いているかは「立ち耳」という言葉だけでは分かりません。できれば一度診察を受けてみてください。大江橋クリニックでは形や症状、左右差によって左右それぞれを別の耳と考え、様々な手術法で手術しています。
大江橋クリニックで行っている立ち耳の手術法に関しては、この後にも詳しい説明があります。興味のある方はご覧ください。
立ち耳の手術法の詳しい説明
立ち耳は対耳輪を折るだけでは綺麗に治りません。なだらかな曲面を保って部分ごとに少しずつ曲げて行くことがきれいな対耳輪を作るコツです。
糸の力で曲げようとすると失敗する
美しい耳は一部の鋭角に作らなければならないポイントを除き、ほとんどすべてがなだらかな曲線、曲面で構成されています。
例えばこのページのトップにあげた耳の写真は、写真素材を扱うサイトで見つけた「きれいな形の耳」です。シャープな線は対耳輪の下脚(第1脚)の部分のみです。立ち耳の手術では、対耳輪を鋭角に折ってはいけません。
残念ながら、厚紙を折り曲げる如く二つに折り畳んだような手術を良く見かけます。
インターネットで検索すると出てくる術後写真も、ほとんどが対耳輪を鋭く折り曲げています。またそのように解説しているサイトさえあります。
一旦こうした手術をされてしまうと、柔らかなカーブを取り戻すのはとても大変です。
耳の後ろを切って軟骨を3カ所深く切開した上で糸で縫合したそうです。
右の当院の症例(抜糸直前でまだ腫れています)と対耳輪のカーブを比較してみましょう。
↓左右とも耳輪が波打っています (下段は当院症例)
上左で見たのと同じ症例です。一部を強く曲げたために耳輪が波打っています。
下の写真で当院の症例の術前術後を見てみましょう。
上右と同じ症例ですが、術前より耳輪全体が自然に後ろに倒れた事がわかります。
左:術前 右:術後
対耳輪ははっきり見えるようになりましたが、耳輪は凹凸なく正面から見てもなだらかです。
※ 実際には理想のカーブを描くのが難しく、再調整しなければならないケースもあります。
上で紹介した症例
強く折り畳まず自然なカーブを作る
立ち耳手術の保険適用について
お問い合わせが多いご相談ですが、その多くは「立ち耳の手術を保険でやっているか」というものです。いわゆる「立ち耳の手術」(立っている耳を後ろに寝かせる手術)には保険を適用することができません。
厚生労働省近畿厚生局や健康保険審査機関に問い合わせて確認し、立ち耳の手術に健康保険を適用する事はできないとの返事をいただいておりますので、大江橋クリニックでは立ち耳の手術に関してはすべて自費治療とさせていただいております。
他の医療施設では保険で行っているとの情報は多々耳にしますが、その場合は何か別の病名を便宜的につけて保険適応としているのかもしれません。もしそうだとすれば、医師の好意とはいえ「診療報酬の付け替え請求(本来保険請求できない処置を、別の病名や手術名に付け替えて請求する)」という違法行為の疑いもあります。
保険の審査は地域格差があり、審査する市町村や担当医師によっては保険請求が通るのかもしれませんが、少なくとも当地では難しいようです。
保険でやっている医療機関を教えて欲しいという問い合わせもいただきますが、上記のようにもし行っているとしても個々の医師がこっそりと患者さんに便宜を図っているものと思われますので詳細を書くことはできません。
健康保険の適応にならないのは立ち耳が病気ではないから
日本を含むアジア諸国では、文化的社会的に耳の形に関しては許容度が高く、立ち耳に関しても、特に子供の頃には「ミッキーマウスのよう」「おさるさんのよう」などと、むしろ「かわいらしい」「愛らしい」ものとして愛される傾向があります。このため、正常な耳を立ち耳にしてほしいと言う依頼もあります。(正常な耳介を異常な形にするのは医療倫理に反すると考え、行なっていません。)
ヨーロッパでは人間と動物を明確に区別する宗教観から、動物の耳に似ていることは社会生活上著しい不利益を被りますが、日本で生活している限り耳の形が風変わりであるからといってそのようなことにはなりません。
最近ではヨーロッパ的な習慣が広まり、またピアスを着用する際に美しく見えないなどの理由から手術を希望する方が増えましたが、一般に社会生活上著しい不都合があるとは考えられないため、通常は耳介の形の異常は健康保険の対象となりません。
他院の美容手術で変形した場合の再手術
立ち耳の手術などは様々な術式があり、時には上で示したように軟骨を折りたたむ場所が不適切だったり、左右で異なっていたり、特殊な手術でかえって変形したりといったことが起こります。
大江橋クリニックでは、まずできるだけ手術前の状態を復元し、折れた場合は平らに戻したり固定した糸を外したりしてから、自然にカーブさせる位置を探します。
軟骨は折り曲げるのではなく、木の枝を矯めるように柔らかく矯正することが大切ですが、そうした技術を持つクリニックは少ないようです。
耳介軟骨の再修正は自費になります。いったん元に戻してから再度曲げるという、時間のかかる手術になる関係上、基本的には通常の耳介軟骨修正料金の概ね50%増しになります。さらに軟骨移植が必要であったり、特殊な手技を必要とする場合はもう少し高額になる場合があります。
立ち耳の手術にかかる費用についてはこちら



