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耳介形成手術の基礎
〜 about Auriculoplasty 〜

大江橋クリニックは耳(外耳・耳介)の治療に関して、
様々なご相談をお受けしています

手術以外の治療に関しては こちらをご覧ください


大江橋クリニックで行った耳介形成手術の例

スタール耳様の変形耳介の術前術後:(
トップページに掲げたものとは違うタイプの耳です。
右は術後13日目に全抜糸した時の写真で、赤みがまだ強い状態です。
残念ながら抜糸後に1回も受診されいません。
もう形が治ったからいいとお考えなのでしょうか。
あと一週間ほど経つと見た目はやや落ち着いて来るはずですが、
形が安定して赤みがなくなるまでにはまだ2〜3ヶ月かかります。
術後の通院治療を定期的に継続していただくと、
早く安定して赤みもひきトラブルの可能性も少なくなるのですが。
※ お決まり:写真は一例です。個人差があり、同様の仕上がりを保証するものではありません。

以下、クリックして項目を広げると、術中写真が表示される項目があります。
彩度を落とすなどして衝撃を緩和する工夫をしていますが、血液の写った写真などが苦手な方は用心してご覧ください。

耳介軟骨の特別な性質を詳しく知る

耳介軟骨は弾性軟骨といって肋軟骨や関節軟骨、鼻の軟骨とは違う特殊な性質があり、この性質を持つ軟骨は他には耳の奥の耳管と喉の奥にある喉頭蓋軟骨だけです。柔らかくて弾力があり、元の形に戻ろうとする性質が非常に強いため力で曲げても後戻りしやすく、戻らないように曲げるには、この性質に対する知識と「コツ」が必要です。

耳介軟骨の基本構造

人体の軟骨組織は、基質となるコラーゲンなどの成分の違いによって硝子軟骨、線維軟骨、弾性軟骨に大きくわけられます。膝などの関節軟骨や肋軟骨、鼻の軟骨など多くの軟骨は硝子軟骨と呼ばれ、硬くて圧迫に強く丈夫です。しかし長い間には徐々に傷んで減少し、再生力が弱いという欠点を持っています。
一方、耳介の弾性軟骨は、基質の中に含まれる弾性線維が非常に多く、その名の通り弾性に富んでいます。(鼻の軟骨も弾性線維を多く含んでいるので、硝子軟骨ですが弾力があります。)
弾性、弾力とは変形しても元に戻ろうとする力のことで、ゴム製品を想像していただければ良いと思います。このため耳介の軟骨は長い間力を加えて変形させていても、その力を解除すれば元の形に戻ろうとします。

手術で耳の形を変えようとした場合、この性質が邪魔をしてなかなか思った形に落ち着いてくれません。

じつは、耳介軟骨の曲げにくさの原因はこれだけではないのですが、それについてはこの後詳しく説明します。

耳介軟骨の成長と耳の形態

耳介は胎生期の中頃、手足の指が一本ずつに分かれていく頃に、これと並行して6つの耳介小丘という膨らみが融合して発達していきます。

一つに融合した耳介軟骨は図のようにとても複雑な形をしています(Spalteholzの解剖図譜より引用)。
軟骨のない耳たぶを除き、耳介の前面はこの軟骨の上に薄く皮膚を被せただけの単純な構造です。後ろ側に(本来ならば耳を動かせるはずの)筋肉や太い血管、神経が分布しています。手術をするときに耳の裏側からアプローチをすると、これらの血管や神経を避け、筋肉を切断し、分厚い皮膚の奥にある軟骨を半ば手探りで扱うことになり、細かい作業は困難です。大江橋クリニックの耳の手術では耳の表側を切開することが多いのですが、それはこうした理由によります。
※ もちろん、表側に傷をつけることになるので、切開する位置や縫合にはかなり気を使います。

耳介軟骨の形成異常を治す

複雑な成長過程を辿る耳介は、ちょっとしたきっかけで折れ曲がる方向が変わったり、融合し損なったり、一部の成長が遅れたりします。重症であれば小耳症のように外耳だけでなく内耳まで含めて片方の耳が極端に小さくなってしまうこともありますが、そこまで行かなくてもちょっとした欠損や成長障害などで解剖の教科書に書いてあるような耳とはずいぶん形が違ってしまうことは稀ならずあり、多くの人は左右の大きさや形が微妙に違っているのがむしろ普通です。

折れ耳や立ち耳、スタール耳などと名前がついていても、実際には人それぞれに「正しい耳」になれなかったポイントの場所が異なるため、一人として同じ形の障害はありません。そうした意味では治療は極めて個人的でオリジナルなものになります。(写真はどちらもスタール耳)
二重瞼や眼瞼下垂などの治療と大きく異なるのはこの点で、耳の手術はそうした定型的な手術ではなくむしろ傷跡の手術と似た面があります。(ケガによる傷の形も人によって異なり、同じ形の傷になることは非常に稀です。)

ですから耳介形成術は一つずつが全く違う手術になりますし、特定の(小耳症や耳輪埋没症など)同じようなやり方である程度うまくいく手術を除いては〇〇法、という決まった術式が現れにくく、その場その場での細かな判断が重要になってきます。

耳介軟骨の外傷と変形

普通に成長した耳も、外力によって変形してしまうことがあります。ケガでちぎれればもちろんですが、打撲で血が溜まったり、軽度な刺激を繰り返すことで内部にリンパ液が溜まったり、炎症を起こして溶けてしまったりすることもあります。軟骨には本来血管のような酸素と養分を運ぶ仕組みがないので、一度ダメージを受けると非常に治りにくいのです。(写真は軟骨炎で軟骨が溶けてしまった耳)

軟骨は軟骨膜という丈夫で薄い結合組織でタイトに覆われていますが、これが断裂すると非常に痛いだけでなくしばしば出血します。軟骨膜には耳介軟骨本体とは違って血管と神経が豊富に分布しているのです。

そして出血することで軟骨膜に含まれる軟骨の元になる幹細胞が増えて、その部分の軟骨が増殖します。柔道耳や古い耳介血腫などでは、耳介が分厚く盛り上がっていわゆる「ぎょうざ耳」と呼ばれる状態になりますが、その餃子の「あん」はケガの刺激で不規則に増殖した軟骨の塊です。

5年にわたるいじめで殴られ続けたことによる耳介の変形の例

作業に使う棒のようなもので5年にわたり仲間から殴られ続け、出血を繰り返して変形してしまった耳。耳介の内部には新生した軟骨の塊が充満しており、切除するとなんとか耳の形らしくなった。
研修医を終えて一人で手術できるようになって間もない頃の症例です。耳の強い変形を手術するのは初めての経験で、深追いして軟骨を切り取りすぎると耳がなくなってしまうのではと心配でした。まだこれ以上綺麗に治す腕がありませんでした。今ならもう一度手術させてもらって、不必要な部分を薄く削り凹凸のはっきりした耳に仕上げると思います。

耳介軟骨は軟骨膜でぴったり覆われているので曲げにくい

正常な耳介軟骨は1ミリ程度の薄さの板状で、複雑に折れ曲がって凹凸がありますが、その表面は隙間なく丈夫な軟骨膜で覆われています。軟骨膜は伸び縮みしにくいため、形を保つ力が強く、一度出来上がった耳の形は引っ張ったり押しつぶしたりしても容易には変わりません。
ですから手術する際にはこの軟骨膜に切れ目を入れる必要があります。

 耳介を曲げようとすると抵抗する力

軟骨のような硬く弾力のあるものを力だけで下に曲げようとすると、厚みの中央となる平面より上は引き伸ばされ、下は圧縮されます。弾性とはこの圧縮と引き延ばしに抵抗して元に戻ろうとする力なので、力を加えるのをやめると復元します。
一部の美容外科のサイトにあるような、糸で締める方法では、強い糸の力が必要で、糸が切れれば元に戻ってしまいます。

上面の軟骨膜を浅く切開して張力を弱めてやると引っ張る力が分断されてその直下の軟骨が延び、下面の圧縮も弱まるため小さな力で曲げることができます。
また曲がった軟骨の上面では切れた軟骨膜が修復される時に軟骨も増殖するので、傷が治ると曲がった形を維持するように力が働き、糸の力は不要になります。糸が切れても元に戻らなくなるのです。

 耳介軟骨には表面張力が働いている

軟骨が曲がるのは軟骨膜が切れて引っ張りが弱まるからだけではありません。弾性軟骨内には縦横に弾性線維が走り、軟骨自体を内部に引き込むような「圧縮力」が発生しています。軟骨の内部ではこの力は全方向にほぼ均等に働きますが、表面では下に引き込む力だけが働くため表面積を最小にしようとする「表面張力」が働きます。

軟骨表面を浅く切開することによりこの力のバランスが自然に崩れ、軟骨は切れ込みを入れた面が開くように変形します。(茄子の煮物やイカの刺身などの表面に入れる飾り包丁をイメージするとわかりやすいかもしれない。)力で無理に曲げるのではなく、内在的な変形する力を利用するので、軟骨は自然に曲がり、しかも切れ込みを入れた面で軟骨の増殖が起これば元に戻る力を打ち消してくれます。

耳介軟骨表面に曲げたい方向に浅く刻み目を入れていく

皮膚を一旦剥がして軟骨表面を(できれば軟骨膜をつけたまま)きれいに露出し、立体構造を頭に描きながらメスの先で細かく浅い切り込みを入れていきます。平行線をたくさん入れることもあれば、放射状や同心円状に切っていくこともあります。そしてその形を保つように糸で重要なポイントを縫って固定していきます。この糸は通常抜糸しませんが、腫れが引いて結び目が気になるときは後から抜糸することもあります。十分時間が経っていれば、抜糸しても形が元に戻ることはありません。

 立ち耳の手術への応用

立ち耳を綺麗な形に戻すポイントは、対耳輪の柔らかいカーブを作り、鋭角に折り曲げないように気を配ることだと思います。多くの美容外科の教科書に、対耳輪の裏から深い(多くは3本の)平行な切れ込みを入れてから糸をかけるなどと書いてあるのですが、裏から切り込んだのでは折り曲げることはできても柔らかく曲げることは困難です。(自然に曲がりたい方向とは逆に力を加えることにもなります。軟骨には圧縮力が強く作用します。)

切り込みは表から浅く入れる必要がありますが、皮膚切開を裏側におくと、表面の軟骨を露出するためには服を脱がすように、袋を裏返すように耳の皮膚全体を表裏とも耳介軟骨から剥がしてしまわなければならず、侵襲も大きいし元に戻した後の厳重な圧迫固定や血腫を予防するための吸引が必要で、形を保つことが難しくなります。

私も以前は表側に切開瘢痕を作りたくないため、裏から切っていましたが、この方法はリスクが大きいためやめました。思い切って表面からのアプローチにしたことで、縫合も軟骨形成も非常にやりやすくなりました。最後の皮膚縫合を丁寧にすることで、瘢痕が目立って困るということはないようです。

耳介形成手術に伴う軟骨移植術、皮弁術、全層植皮術

コンクリート工事ではなくタイル張り工事です

最近健康保険で手術を行った際に、耳介形成術に軟骨移植術を合わせて請求したけれど認められませんでした。(もちろん異議申し立て中。保険はこの作業が鬱陶しい。)
切除した余った軟骨を細かく砕いて欠損部に埋め戻したものだろうから「充填」に過ぎず移植にあたらないというのです。「細かく分割して整形し、欠損部に移植」と書いたのを誤解されたようです。実際には切除した軟骨の塊を薄板状に薄く分割し、上記のような操作を加えて凹凸や形を調整した上で、かけたタイルを修復するようにはめ込み、一つ一つ糸で周囲を固定していったもですから、非常に手間と時間がかかっています。
道路工事に例えるなら(例えが悪い?)ガタガタになったアスファルトを掘り起こし、砕いて瓦礫にして穴ぼこに埋め戻すといった感じが前者で、割れた敷石を取り除き、周囲に合わせて切った石の薄板を段差がなくなるように敷いていくのが後者です。大江橋クリニックは基礎工事でなく仕上げの工事をするのだということが審査の先生にわかっていただけなかったようです。

 柔道耳(保険病名:花キャベツ状耳)の手術への応用

暴力的外傷による耳介変形です。皮膚を剥離すると内部の軟骨はバラバラに断裂しています。
(左端)できるだけ元の位置に戻し、整復できない軟骨は切除します。
(左)皮弁を戻すと、耳輪の張り出し部分が丸まってしまい十分に耳輪が広がりません。
(右)先ほど切除した軟骨の折れ曲がりを直し、きれいに整形して耳輪に移植します。
(右端)移植軟骨の上に耳輪の皮膚を被せるといい形になりました。

いわゆるギョウザ耳の手術では上記のようなことを頻繁に行います。保険の「骨移植術(軟骨移植術を含む:自家骨移植)」は元来整形外科的な手術を想定していると思われますし、ドナー(軟骨採取部)と移植部が非常に近いので、とった物を戻しただけといえばその通りですが、その途中に細かい作業(移植床の準備、移植軟骨の整形、縫合固定)が入っているので、軟骨移植でいいと思っています。小耳症手術で耳のフレームを作るため肋軟骨をとってきて耳の形を作るのと同じことを小規模に行っているだけです。
ただし健康保険ではこうした手術をあらかじめ想定していなかったと思われるので、保険適応が元々なかったといえばその通りなのです。というわけで、今後は保険の審査の先生(医療費を削るのが役目)と争うより、その費用は自費で患者さんにご負担願うべきかなとも思っています。

費用負担はさておき、大江橋クリニックではこのような繊細な修復手術を数多く手がけています。一度の手術で完璧を記すのはなかなか困難ですが、彫刻の仕上げのように、できる限り自然な耳を目指す手術を行っていきたいと思います。

皮弁術は皮膚を剥がして元に戻すだけではありません

これも最近健康保険で手術を行った際の話ですが、皮膚を切開して皮弁を挙上し、内部の軟骨に対して耳介形成術を行い、出来上がった軟骨に被せるように皮弁を移動縫合したところ、「軟骨を手術するのだから皮膚を剥がして戻すのは当たり前」として皮弁術が認められませんでした。
耳介形成の際に一旦皮膚を軟骨から剥がして皮弁挙上する方法がどの程度一般的であるかはさておき(通常はほとんど行われていないと思っています)、変形した耳介のどの部分を切開するかは実は結構難しく、仕上がりの形を想定して、出来上がった耳の目立ちにくい部分に最終的に切開線が収まるようにデザインしないといけない。剥離の際にも特に傷痕の皮膚は凹凸があったり厚みが場所により違い、綺麗に挙上するのはなかなかテクニックが必要です。
軟骨の形を変えると、当然挙上した皮膚と軟骨の位置関係は変わり、軟骨に対して前進したり転回したりして皮弁移動術になるわけです。その際被せた皮膚が軟骨にぴったり密着しないと皮弁が壊死したり萎縮したりしますし、反対側の皮膚とぴったり合わないための補助切開を加えて組み合わせたりもします。皮膚の状態によっては血流を保つため移動に制限が出たりします。

上記軟骨移植の症例です。暴力的外傷による耳介変形です。術前と術後を表示しています。
(左端)軟骨がバラバラに砕けて位置が変わってしまっていることがわかります。
(左)修正後の耳の形を想定して切開線を決めます。
(右)抜糸すると腫れが引いたらいい形になりそうです。
(右端)ところが実際に腫れが引いてくると、軟骨の増殖や皮膚の萎縮が徐々に出てきて100点満点とはいきません。
仕上げ手術をしたいところですが、ご本人は満足され、結局このまま終診となりました。

どうしても有茎で移動できない時は、局所皮弁を諦めて全層植皮術に切り替えたりしますが、植皮術は移植先の血流が豊富でないときは小さな範囲にとどめないと壊死してしまいます。
こうしたことを臨機応変にやるためには、あらかじめ手術法(と値段)を決めておくのは難しく、手術法によって値段が厳密に決まっている健康保険だと患者さんへの説明と実際に行った手術法が食い違った時などに困ることになります。(今までは、安くなった時は特に説明せず安くなった手術料で精算し、高くなった時はクリニックで差額を負担してきました。)

自費手術であれば値段の付け方はクリニックと患者さんの個別の約束ですからこうした問題は起きません。そうしたわけで、複雑なことが予想される手術ほど、自費で行うべきかと思うようになりました。大江橋クリニックではこのような繊細な修復手術を数多く手がけています。一度の手術で完璧を記すのはなかなか困難ですが、彫刻の仕上げのように、できる限り自然な耳を目指す手術を行っていきたいと思います。

皮弁挙上し一旦皮膚を剥がして元に戻す利点

皮弁挙上して軟骨表面を露出してから皮膚を上に戻すと、軟骨と皮膚が再び接着するときに軟骨膜の結合組織が修復され、硬く血管に富んだしっかりした軟骨膜ができます。また切開を入れた軟骨(それ自体には血管がなく治癒しにくい)がその血流豊富な組織に覆われるため、軟骨自体も増殖して厚めのしっかりしたものに変わります。もちろん縫合した部分もきちんと癒合します。(隙間があるとそこに結合組織が入り込むことはある。)
軟骨の欠損や変形が強く一度の手術では完全にいい形にできない時でも、しばらく間をおいてもう一度剥離すると欠損していた部分に軟骨ができていて、今度はそれを曲げたり削ったりしてより良い形にできることがあります。

 柔道耳(保険病名:花キャベツ状耳)の手術への応用